勝先生の記憶
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彼は当時、「劇団ひまわり」に所属しながら、チャンスを虎視眈々と狙っていた。無名であるふたりがロケ現場ですれ違ったとしても、お互い知るわけもないから挨拶することもなかった｡もし話す機会があったら、同じ東北人としてすぐに意気投合しただろう｡しかし、彼が同じドラマにちょい役で出ていたのを知ったのは、ずっと後になってからのことである。
勝アカデミーの生徒は、勝プロダクション製作のドラマに優先的に出演させてもらえた｡かくなる私もフル回転の活躍（エキストラ出演であるが）をさせてもらった。役のついた先輩たちは、ドラマの最後にクレジットにつぎつぎと名前がのった。果たして、私にもそのチャンスが巡ってきた。旅行代理店の受付係の役だった｡後ろからの撮影で顔は映らないし、セリフも短かったが、とても緊張したことを覚えている｡
その出演ドラマとは、松平健主演の『走れ！熱血刑事』である。ちょうど放映時間がアカデミーの授業とぶつかっていて、リアルタイムで見ることができなかったが、その日は授業をサボタージュしたのかもしれない。自分の出演場面をじっくり見た後で、配役のスーパー・イン・ポーズに自分の名前を探しながら、固唾を飲んで見入った。松平健、坂上二郎、竜崎勝、水沢アキ、宍戸錠・・・。いくら目を凝らしても、自分の名前らしきものは出てこない。先輩や仲間の名前は出ているのに、なぜか自分の名前だけがなかった。期待していたぶん、落胆も大きかった。「どうせのるならトップだな」などとうそぶいたのが、まるで昨日のことのようである。
その後十年ぐらいの月日が流れ、そのドラマの再放送を見る機会があった｡当然自分の名前はないが、そこに新たな名前を発見した｡その名は柳葉敏郎。彼も顔の出ない役だったらしく、ついぞドラマ中に彼を見つけることはできなかった。が、彼はキャストに名を残し、私は名を残すことができなかった｡そこに同時代に芸能界をめざした東北の若者の明暗を見るようで、自分にとっては人生の綾を感じざるをえない出来事である。もし、私が勝アカデミーを選択せず、同じく合格していた劇団ひまわりに入学したら、確実にぎばちゃんと出会っていた。彼をテレビで見るたびに、幼なじみに会ったような気になるのは、そのような理由からである。
余談ながら、劇団ひまわりでの入学試験の面接官は、女優の関千恵子であった。彼女は松竹に所属していたことがあり、あの国民的スター寅さんこと、渥美清とも共演している。寅さんは会ってみたい俳優の一人だったが、その願いはついぞ叶わなかった。